スキビ二次小説ブログ「唐紅」でいただいたコメントのお返事、更新情報、管理人の近況などを書いています。尚、お名前の敬称についてですが「さん」で統一させていただいています。管理人に対しても気軽に呼んでやってくださいv
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2010/06/08 (Tue)
「やっぱりいないみたいだな」
開かれたドアからスタジオを覗き見て、目的の人物がいないことを確認する。控え室の方かなと足を踏み出そうとした時に、「ああ……あそこですよ」と隣にいる俳優が顔を綻ばせた。
その言葉の指し示す方向を見ると、高校生ぐらいの女の子が数人で楽しそうに立ち話をしている。その内の一人が俺達に気づき少しばかり興奮気味に仲間に何やら話すと、僅かに背中だけが見えていた少女がこちらに顔を向け、フッと目を細めた。
リーダー格と言った風情の大人びた印象のその子が、輪から外れて俺達へと近づいてくる。
颯爽と、という表現が似合うだろうか。ベージュのパンツスーツ姿の少女は、そのスレンダーな容姿に相応しい優美な歩行で歩いてくる。胸元で燦然と輝いているのは、ピンクの宝石……プリンセスローザだ!
「どうも…お疲れ様です」
キョーコちゃん……ではなくて、『ナツ』が首を傾げる様に、軽く頭を下げて俺達二人に挨拶をした。
「お疲れ様。もう収録は終わりかな?」
「はい。共演者と世間話をしていただけですから」
蓮と話をする彼女の口調は丁寧ではあるものの、それはいつもの親愛の込もった敬語ではない。役がまだ抜け切っていない事に驚き、「キョーコちゃん?」と思わず声が漏れた。
ダークムーンの撮影の時には、収録後まで未緒を引きずる事はなかったのに……そんな困惑を読み取ったのか、キョーコちゃんは俺に向かい合うと口を開いた。
「そういえば『ナツ』としてお会いするのは初めてですね。BOX“R”の録りがある時には、基本的に『京子』は封印しているんです」
「どうして?」
「『ナツ』に関しては、その方が役作りがしやすいというのが一番の理由でしょうか」
「役は充分に掴んでいるように思うけど……何か引っかかっている事でもあるの?」
キョーコちゃんのナツ作りに一役買っただけに気になるのだろう、蓮が横から疑問の声を上げた。
「私が、というよりも他の共演者の方が……でしょうか。普段の私とナツとではギャップがありますので……」
僅かに目を伏せて一呼吸置くと、ナツは話を続けた。
「BOX“R”では台本に最初から書かれていない、自分達のアドリブで演じなければならないシーンがあるんです。それに対応するには収録の時だけ演技をするよりも、普段から配役を演じていた方が世界を構築しやすいんですよ」
アドリブが必要なのは、主に苛めシーンなんですけどね……?
そう言って口の端を上げた妖艶な顔は、俺のよく知るキョーコちゃんとも……同じ苛め役である未緒とも異なる表情で、その威圧感に息を飲む。
フッと笑う気配を感じて横を向くと、そこには満足そうに微笑みながらもどこか挑むような眼差しを彼女に向ける男がいた。
君のライバルはここにいる
早くここまで登って来い
―――その瞳はそう告げているようで……
ああ、この二人はこうして歩んでいくのだろうなと、その繋がりの根底を垣間見た気がした。
「正当な権利」は冒頭部分をどうするか迷い、三つほど違うパターンを書いています。そのままお蔵入りするよりはひっそりUPしようかなと思い、その内の一つをこちらに上げることにしました。
雰囲気的には好きな展開なのですが、これで始めるとナツ魂が抜けてくれなくて社さんへの相談事まで話を持っていけなかったんです。前置きとしては長すぎる感もありましたので。
とりあえずラストだけをちょこっと書き加えて、一つの話にしてみました。
雰囲気的には好きな展開なのですが、これで始めるとナツ魂が抜けてくれなくて社さんへの相談事まで話を持っていけなかったんです。前置きとしては長すぎる感もありましたので。
とりあえずラストだけをちょこっと書き加えて、一つの話にしてみました。
「やっぱりいないみたいだな」
開かれたドアからスタジオを覗き見て、目的の人物がいないことを確認する。控え室の方かなと足を踏み出そうとした時に、「ああ……あそこですよ」と隣にいる俳優が顔を綻ばせた。
その言葉の指し示す方向を見ると、高校生ぐらいの女の子が数人で楽しそうに立ち話をしている。その内の一人が俺達に気づき少しばかり興奮気味に仲間に何やら話すと、僅かに背中だけが見えていた少女がこちらに顔を向け、フッと目を細めた。
リーダー格と言った風情の大人びた印象のその子が、輪から外れて俺達へと近づいてくる。
颯爽と、という表現が似合うだろうか。ベージュのパンツスーツ姿の少女は、そのスレンダーな容姿に相応しい優美な歩行で歩いてくる。胸元で燦然と輝いているのは、ピンクの宝石……プリンセスローザだ!
「どうも…お疲れ様です」
キョーコちゃん……ではなくて、『ナツ』が首を傾げる様に、軽く頭を下げて俺達二人に挨拶をした。
「お疲れ様。もう収録は終わりかな?」
「はい。共演者と世間話をしていただけですから」
蓮と話をする彼女の口調は丁寧ではあるものの、それはいつもの親愛の込もった敬語ではない。役がまだ抜け切っていない事に驚き、「キョーコちゃん?」と思わず声が漏れた。
ダークムーンの撮影の時には、収録後まで未緒を引きずる事はなかったのに……そんな困惑を読み取ったのか、キョーコちゃんは俺に向かい合うと口を開いた。
「そういえば『ナツ』としてお会いするのは初めてですね。BOX“R”の録りがある時には、基本的に『京子』は封印しているんです」
「どうして?」
「『ナツ』に関しては、その方が役作りがしやすいというのが一番の理由でしょうか」
「役は充分に掴んでいるように思うけど……何か引っかかっている事でもあるの?」
キョーコちゃんのナツ作りに一役買っただけに気になるのだろう、蓮が横から疑問の声を上げた。
「私が、というよりも他の共演者の方が……でしょうか。普段の私とナツとではギャップがありますので……」
僅かに目を伏せて一呼吸置くと、ナツは話を続けた。
「BOX“R”では台本に最初から書かれていない、自分達のアドリブで演じなければならないシーンがあるんです。それに対応するには収録の時だけ演技をするよりも、普段から配役を演じていた方が世界を構築しやすいんですよ」
アドリブが必要なのは、主に苛めシーンなんですけどね……?
そう言って口の端を上げた妖艶な顔は、俺のよく知るキョーコちゃんとも……同じ苛め役である未緒とも異なる表情で、その威圧感に息を飲む。
フッと笑う気配を感じて横を向くと、そこには満足そうに微笑みながらもどこか挑むような眼差しを彼女に向ける男がいた。
君のライバルはここにいる
早くここまで登って来い
―――その瞳はそう告げているようで……
ああ、この二人はこうして歩んでいくのだろうなと、その繋がりの根底を垣間見た気がした。
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